ヤンキーマップ

免許の更新のため、チャリザベスで1時間以上かけて長岡京らへんまで行ってきた。事前にGoogle マップで調べたら、碁盤の目の真ん中あたりの通りを延々と南へ進めばいいらしい。わかりやすくてよろしい。これはちょっとした冒険だなと、水筒に冷えた水を入れて、日焼け止めを塗りたくり、この間プラザで買ったばかりの携帯用ハットを目深に被って、一気に漕いだ。漕ぎまくった。

つっても京都駅あたりまでは、だいたい見たことのある景色だった。ハットのつばが風で何度もペラっと曲がって目隠しをするので、「んあ!」とカゴに押し込んだ。暑い。京都の夏は暑いと聞いたけど、すでに結構暑いじゃん。二条城のあたりの交差点で、外国人観光客の強烈な香水の匂いにむせる。

京都駅の高架下を下りながら、くだらなくても歩道側から通り抜けられることに気づいて、そそくさとまた坂をあがると、左手に巨大なショッピングモールが見えて、そこからは九条、十条と、見慣れない街が続いた。まず緑がない。郊外っぽい。何より、「条」がなくなったら完全に未知の世界。気づいたら名神高速が頭上を走っていて、次第にワコールとか京セラのビルが見えてくる。あ、これは前に高速道路から見たぞ。ってことはあっちが奈良かあ、チャリザでいけるかも?と残りの充電を見て、一瞬目的を忘れた。

あれ、で、どこで曲がるんだったっけな、とポケットに手をやる。あれ?
ああああああ!ない!出力済みのGoogle マップ(一周回ってアナログ)がどっかいった!風に飛ばされたのか!えっもう奈良行っちゃおうかな!でも今日逃したら免停だ。シャレにならん。

しかもガラケーも置いてきた。もうこのところケータイを持ち歩かなくなってた。当然スマホはない。「あの、地元の方ですか?」と声をかけたロマンスグレーなおじさまは、買い物袋下げといて観光客だった。次の信号で、制服にネームプレート、セブンイレブンの袋を引っさげて、財布だけ抱えたどう考えても昼下がりのOLを見つけた。よそからきてるかなあ、とダメもとで声をかけると、「あ!ちょっとあっちのビルまで来れます? 地元のスタッフがいるので」と感じよく促してくれる。一緒に横断歩道を渡りながら「京都って道はまっすぐなんですけど、案外わかりにくいんですよね」と笑いながら、栗色のボブが揺れる。

駐車場で待っていると、メガネをかけて髪をきっちりあげた褐色肌な長身のお兄さんが出てきて、お姉さんより一段きつめの関西弁で道案内してくれる。「まっすぐ行って、〜で曲がって、〜で曲がって、〜を通って・・・」と聞いてるうちに、やべえ、メモがねえ、そして私の脳みそでは最初の曲がり角を覚えるのが限界だと、ひとまず冒頭だけしっかり頭に叩き込んで別れる。振り返ると2人とも手を振ってくれていて、思わず「あっ」と声が漏れた。ありがとう、と手を振り返した。

赤の他人と話した後ってちょっと万能感つくよなあと、A面クリアみたいな気分で最初の曲がり角まで来る。しまった、水が切れた。ひとまずファミマで道の続きを聞こうと思って入った瞬間、面食らった。昼下がりのヤンキーっぽい若者(迷彩柄のセットアップジャージとか襟足金髪とか)が集団でウロウロしていて、レジにはひたいに捻ったタオルを巻いた、土方のおにーさんがずらっと並んでる。

ドリンクコーナーへ行くと蛍光色のくまちゃんが無数に笑ってる黒地のパーカーをきたお兄さんと目があって、自分が開けたドアを手で支えたまま、「見るならどうぞ」って感じで促される。優しいなあ。ああ、話しかけてみたい。経験上、地元密着型の若者はよそ者に案外親切だ(かつて隅田川の花火大会で、駅までの道を懇切丁寧に教えてくれた超絶刺青の白タンクにーちゃんがいてさ)。チャリザのそばで喫煙中のニーサンにドキドキしながら「運転免許の場所、わかります?」と聞くと、国道まで出て教えてくれる。「どっからきたの」と聞かれて答えると、「はあ!遠!」と声が響いた。

桂川を渡る。巨大な道路の下に、歩行者用の道路が通っていて、原付が越して行く。広いなあ、賀茂川とかより断然大きい。名前も知らない山々が広がって、もうどっちが大阪で京都かもよくわからない。ただ、随分高いところからパノラマでぐるっと視界を回すと、今更、関西に住んでるんだなと思った。なのにどうしてこう、いつも懐かしいんだろう。

この辺が川の真ん中かな、とチャリザを止めて、川の流れを全身に受けてみる。川はずっと下だけど、やっぱり流れの真ん中には特別な風が吹いている。決して絶えない風。身体が火照ってる。道を教えてくれた人は、たどり着けた頃かと思い出したりするだろうか。あの強面なお兄さんはどの辺に住んでるんだろう。人生の端と端が触れてまた別れる。チャリザを漕ぎ出して、これはひとり旅の感じだなと思った。

はい、実はファミマでヤンキーに道を聞いたくだりだけフィクションです。なんか隅田川の時のニーチャンとの思い出を、あのタバコ吸ってたニーチャンに重ねたくなったんだよね。

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